秋桜のひとり言2

同時処理と経次処理

2004-12-15

今日はちょっと専門的なお話。

同時処理と経次処理という言葉を聞いたことがありますか?これは情報処理の方法を表した用語です。文字通り前者は物事を一度に処理していく能力、後者は物事を時系列に沿って処理していく能力を示しています。どちらかと言うと同時処理は視覚的な情報処理、経次処理は聴覚的な情報処理と関わっています。それに付随してか、同時処理が勝っている人は全体的な状況を把握するのが得意ですが、経次処理が勝っている人は物事を一つずつプロセスを追って処理するのが得意な傾向があります。

コース立方体という積み木模様を構成するテストがあるのですが、このテストをするとかなり傾向がわかります。同時処理優勢の人はいくつかの積み木の模様を組み合わせたイメージを考えて構成できるのですが、それに対して経次処理優勢の人は端から1つずつ組み立てていかないと模様を構成することができません。

一般的に自閉症者は同時処理能力が優れていると言われ、実際知能検査などをしても視知覚>聴覚課題の傾向を示します。

ところが同じ自閉症でもアスペルガーの場合、この傾向が逆になることが多く、言語能力のスコアの方が得点が高くなることがよくあります。専門家の中で高機能自閉症とアスペルガー症候群を区別する人がいますが、このような情報処理の違いが理由の一つになっています。

アスペルガーの館の掲示板を見ていると、「人の顔の区別が付かない」「地図が読めない」「名前が覚えられない」「表情が作れない」「距離感が取れない」といった悩みがよく寄せられていますが、同時処理の困難さが関係していると考えられます。

私はアスペルガーの中では珍しく同時処理>経次処理のタイプで、視知覚認知にかなり頼っている傾向があります。そういう意味では私は高機能自閉症に近いタイプのアスペルガーなのかもしれません。そのせいか人の顔の区別も困らないし、顔と名前を覚えるのも得意でむしろ他の担当者のケースの名前まで覚えていて驚かれるくらいです。表情も一通り読み取ることができます。先に挙げたテストも経次処理優勢の同僚の前でやって見せたら「どうしてそんな風に組み立てるの!?」と言われるような反応を示します。同時にいくつもの仕事をしていて、カルテを書きながら人と会話をするので、同僚達は呆れています。

その反面注意が分散しやすい傾向が強く、なかなか1つのことに集中して取り組むことが苦手です。机の上はいくつもやりかけの仕事があり、どこに何があるかは本人以外は分からない状況になっています。物事も結論から言う傾向があり、その根拠を後で1つずつ説明しないと相手は何を言っているのか分からなくなります。論理も飛躍しやすいので、書いたものをもう一度読み返して内容を確認する必要があります。そのため私にとってパソコンやワープロは必要不可欠な道具です。私が何とか今の状態で生活できているのは100人以上の患者のことをカルテなしで想起できる記憶力と、最低限順番を追えるだけの経次処理能力を持っていたこと、そして幼少時からのトレーニングの結果だと思います。

同時処理と経次処理で必要なのってどちらだと思いますか?世の中はどちらかと言うと手順で成り立っているので、実は生活に必要なのは経次処理能力なんです。ただ、アスペルガーの人の場合さらに必要なのが問題を解決する能力なんだと思います。例えば3つやらなければいけないことがあります。それを効率よくやるには普通やりたいことではなく、期日が迫っていることや根本的な問題を解決させることから始めなければいけません。ところがその優先順位をつけるのが苦手で失敗している場合が多いのだと思います。私も幼い頃から母親に相当厳しくトレーニングされました。紙に書く、計画を立てる、手順に沿って料理をする、失敗したら分析してその原因を考える…。小さい頃は「何でこんなことを…」と思っていたのですが、仕事をするようになって自分なりに状況を整理する時、非常に役に立っています。

同時処理はある程度経次処理でカバーできます。また得意な人にどうやっているか聞いてみて方略を学べばかなり改善します。表情などは感情を伴うので難しい面もありますが、ある程度は学習できると思います。

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